オートファジー(自食作用)による自己浄化機構は神経細胞における異常タンパク質の蓄積を抑制し、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症を防止する。ある種のヘルペスウイルスタンパク質はこのオートファジーによる自己浄化機構を抑制することから、ヘルペスウイルスがアルツハイマー病などの神経変性疾患の一因となる可能性が示唆されているが、真相は不明である。本研究は、ブタヘルペスウイルス1型(仮性狂犬病ウイルス)の遺伝子導入によって新規に作出した神経変性マウス(IE180 Tg)の解析を中心に、ヘルペスウイルスタンパク質がオートファジー経路を阻害して異常タンパク質の蓄積を起こし神経変性を誘発する可能性を検証し、その分子機構の解明によって治療への応用を目指すものである。本年度はIE180 Tgマウスの免疫組織学的解析よりIE180 Tgマウスの脳では主に神経細胞および星状膠細胞においてオートファジー/リソソーム経路で選択的に分解されるp62タンパク質の異常凝集が生じていることが証明された。p62がドット状に細胞質や核周囲に凝集したこれらの細胞の多くはIE180タンパク質も陽性であり、変性あるいは細胞死に陥っていた。また、培養細胞にIE180を一過性に発現させた場合やPRVを感染させた場合、p62の発現量が増加することを確認した。本研究成果は、ヘルペスウイルスタンパク質がオートファジー経路の異常を介して神経変性疾患を発現させる可能性を示唆するものである。
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