研究概要 |
本研究は、家畜原虫病の一つネオスポラ症のワクチン開発を目指し,ネスポラ流産関連因子NcGRA7の生理機能の解明とNcGRA7特異的T細胞の誘導方法の確立を目的とした。 ネオスポラNc-1株の精製原虫からRNAを回収し、逆転写によりcDNAを作製した。NcGRA7は217アミノ酸からなり、1-17アミノ酸にシグナル配列、139-157アミノ酸に推定膜貫通領域を持つ。cDNAを鋳型としたクローニングを行い、大腸菌において成熟型タンパク質(28-217アミノ酸)を作製した。 NcGRA7に対するウサギとマウスの特異抗体を作製し、NcGRA7の局在を解析した。NcGRA7は、感染細胞内に形成される寄生胞内へ虫体から分泌されていた。さらに、宿主細胞外の遊離原虫からNcGRA7の放出が確認された。 マウス由来免疫細胞(リンパ球、マクロファージ)とマクロファージ株化細胞に対するNcGRA7組換えタンパク質の宿主細胞に対する細胞活性化作用と細胞毒性を評価した。NcGRA7はマクロファージのF4/80とCD86の発現を増加させ、細胞の活性化を促していることが示された。リンパ球にNcGRA7を作用させると、細胞増殖を促進させた。また、NcGRA7処理マクロファージから、IL-6,IL-12,TNF-α,一酸化窒素の産生誘導が確認され、炎症反応を誘導する活性が示された。高濃度(0.1μM以上)のNcGRA7を作用させると、宿主細胞にアポトーシスを誘導した。興味深いことに、TLR2やTLR4欠損マクロファージでは、上記の炎症反応は抑制された。 以上の結果より、ネオスポラから放出されたNcGRA7はTLR2/4依存的に細胞を活性化し、炎症反応を誘導することが示唆された。今回の研究により、NcGRA7の重要な生理機能が明らかになり、ネオスポラ症のワクチン開発に大きく前進する基礎データを得ることができた。
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