p66shcタンパク質を欠損したマウスは約30%の寿命の延長を示し、さまざまな加齢性疾患に対し抵抗性となる。この原因の一つとして、p66shcによる細胞内活性酸素種(ROS)レベルの調節が考えられている。これまでの研究により、細胞内ROSレベルは細胞の放射線感受性に影響を与えることが示唆されていることから、本年度は、細胞の放射線感受性に対するp66shcの関与を評価することおよびそのメカニズムを解明することを目的とし研究を行った。 p66shcを安定発現したSCCVII細胞(SCCVII/WT p66)を用いて、p66shcが細胞の放射線感受性に対する影響の検討をコロニー形成法により行ったところ、コントロール細胞(SCCVII/vec)と比べて、SCCVII/WT p66ではX線感受性が上昇していた。次に、p66shcによる放射線感受性への寄与がp66shcと相互作用するタンパク質に由来する可能性を考え、p66shc相互作用タンパク質をLC-MS/MSを用いて探索したところ、Heat shock protein 72(Hsp72)との相互作用が確認された。このタンパク質相互作用と放射線感受性の関係を調べるため、Hsp72阻害剤である2-phenylethylsulfonamide(PES)の効果を検討したところ、SCCVII/vecではPESによる細胞の放射線感受性の上昇は見られなかったのに対し、SCCVII/WT p66においてはPES処理により放射線感受性の上昇が認められ、p66shcとHsp72の相互作用が細胞の放射線感受性に影響を与える可能性が示唆された。 p66shcが細胞内の酸化ストレスレベルを増大させることおよびHsp72が細胞内のストレスから細胞を防護することを考慮すると、p66shcとHsp72の相互作用が細胞のストレスレベルの調節に関与している可能性があると考えられる。このp66shcとHsp72の相互作用は、放射線に限らず、他のストレスに対する細胞の感受性に影響を与えている可能性が考えられることから、この相互作用が細胞のストレス感受性を調節するメカニズムの詳細について解析を行うことで、細胞によるストレス応答についての新たな知見が得られるものと思われる。
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