本年度は体細胞クローン産仔の作出率を上げることを目的として、体細胞を核ドナー細胞として作製したクローン胚盤胞期胚の遺伝子発現解析を行った。体細胞クローン胚における遺伝子発現の特徴として、発現低下を示す29個の遺伝子の内、18個がX染色体上に位置することが明らかとなった。発現低下が観察されたX染色体上の遺伝子は、特定の二つの領域に集中しており、それぞれ、Xlrファミリー遺伝子、Mageファミリー遺伝子がクラスターを形成している領域であった。Xist遺伝子は、不活性化X染色体(Xi)上で発現することによって、X染色体における遺伝子発現を広範囲で抑制する非コード遺伝子である。通常、正常な受精卵ではXistは雌のXiのみで発現が確認されるが、体細胞クローン胚で発現を確認したところ、雌雄の活性化X染色体(Xa)での異所性発現が確認された。そこでXa染色体上のXist遺伝子をKOしたXist KOマウス由来の体細胞を核ドナーとして用いて、クローン産仔の作出を行ったところ、通常の作出率と比べて7~8倍上昇した(雌:1.7%vs12.1%、雄:1.6%vs13.0%)。これらの結果より、クローン産仔作出の低効率は少なくともXist遺伝子の発現異常に一因があることが明らかとなった。 しかしながら、発現が低下している数多くの遺伝子が含まれる二つの領域の遺伝子発現は、Xist KOマウスをドナーとしても上昇しないことが明らかとなった。一方で、始原生殖細胞を核ドナー細胞として使用した生殖細胞クローン胚ではXlrファミリー遺伝子の発現は改善していることが明らかとなり、この領域における体細胞とPGC細胞のゲノム修飾の違いが示唆される結果となった。来年度はこの領域におけるゲノム修飾の違いを明らかにし、さらなるクローン効率の改善を試みる予定である。
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