これまでの研究より、生殖細胞・体細胞由来核移植クローン胚では、共にX染色体のA7.2とF3領域(XqA7.2/F3)に位置するXlr・Mageクラスターの遺伝子発現がXist遺伝子の異所的発現非依存的に低下していることが明らかとなっている。そこで本研究では、この発現低下の原因と考えられるヒストンメチル化修飾について解析を行った。 Mage遺伝子は、遺伝子発現抑制性のヒストン修飾であるヒストンH3リジン9ジメチル化(H3K9me2)酵素であるG9aのターゲット遺伝子であることが分かっている。そこで、この二つの領域の発現低下がH3K9me2の蓄積によると予想して、核ドナー細胞としてよく使われる卵丘細胞を用いて、H3K9me2のChIP-on-chipを行った。結果として、XqA7.2/F3にはH3K9me2が広い範囲にわたって蓄積していた。また、GEOデータ(GSE13445)よりES細胞のH3K9me2を解析したところ、同様にXqA7.2/F3にH3K9me2が蓄積しており、体細胞では細胞の分化度に関わらず、この領域がlarge organized chromatin K9 modifications (LOCKs)と呼ばれる転写抑制的な領域に含まれることが明らかとなった。クローン胚ではこの体細胞のエピゲノム記憶が核移植後も初期化されないまま残っていると考えられる。次に、ヒストンH3メチル化酵素であるG9a・GlpのsiRNA、或いはH3K9me2脱メチル化酵素のmRNAを卵子内に注入後、核移植を行うことによって、Xlr・Mageクラスター遺伝子の発現が改善するか否かを検討したが、いずれの場合も発現低下は改善しなかった。従って、核移植によるLOCKsの初期化にはこれらの要素のみでは不十分であることが明らかとなった。
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