研究概要 |
本研究の目的は、吸血性の病原体媒介節足動物の唾液成分が、宿主の免疫応答や病原体の感染に及ぼす影響を検討し、"ベクター唾液成分による病原体の感染増強作用"を解明することである。そのため、リーシュマニア症を媒介するサシチョウバエの唾液成分を用いて、"宿主免疫応答を介してリーシュマニア原虫の感染を増強する唾液成分"を同定し、免疫学的解析によりそのメカニズムを解明することにより、"感染症におけるベクター唾液成分の新たな役割"を明らかにすることを目指す。本年度の研究では、液性免疫応答を誘導するサシチョウバエ唾液タンパクの同定を行った。我々のこれまでの研究で、アフリカで広くリーシュマニア原虫を媒介するサシチョウバエの唾液タンパクの網羅的解析を行ってきた。これらの解析結果をもとに、主要唾液成分をコードするDNAワクチンを作成し、マウスを免疫することにより、効率よく液性免疫応答を誘導する唾液成分の同定を行った。その結果、15kDa, 32kDa, 42kDa, 44kDaの唾液タンパクが液性免疫誘導抗原である事が明らかになった。これらはリーシュマニア原虫感染を増強する可能性が考えられ、今後はこれらの感染増強作用について検討する予定である。 また、中南米で深刻な感染症であるシャーガス病の原因病原体Trypanosoma cruziを媒介するサシガメTriatoma (T.) dimidiataの唾液タンパクの網羅的解析を行った。その結果、1)T. dimidiata唾液腺cDNAの77.5%が分泌タンパクをコードしており、そのうち90%近くがリポカリンファミリーに属するタンパクをコードしていること、2)分泌タンパクをコードする転写産物の53.5%がT. protracta唾液のアレルゲンとして同定されているprocalinに相同性を示しており、このタンパクが吸血の際重要な役割を果たしていることが示唆されること、3)唾液の主要成分として、血小板凝集阻害物質、トロンビン活性阻害物質、カリクレイン・キニン系阻害物質、セリンプロテアーゼ阻害物質などと相同性を持つ分子から構成されていることを明らかにした。
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