研究概要 |
これまで狂犬病ウイルスの病原性に関する研究は,固定毒(野外株の連続継代により得られた実験室馴化株で末梢感染性が野外株に比べ低下)を用いた脳内接種による評価が中心で,狂犬病ウイルスの末梢感染からアプローチによる報告は少なく,かつ末梢感染成立機構についても未解明である.末梢感染性成立機構の解明は,より効果的な狂犬病治療法の確立に役立つと考えられる.本研究では狂犬病ウイルス野外株である1088株から末梢感染性のみが低下した変異株を作出し,親株と変異株で性状比較を行うことで末梢感染成立機構の解明を目指しており,本年度の研究成果について以下に記す. 1088株をマウス神経芽細胞腫由来株化細胞であるNA細胞で30代継代した株は,培養上清中のウイルス力価が10^5FFU/mlオーダーから10^8FFU/mlオーダーに上昇しており,NA細胞への馴化が確認された.1088株30代継代株のマウス脳内接種における病原性は,親株および固定毒であるCVS株と変わらなかったが(いずれもLD50は10FFU以下),筋肉内接種における病原性が著しく低下していた.すなわち1088株より末梢感染能欠落変異株を樹立することに成功した.また野外株1088株の末梢感染性は固定毒CVS株に比べて10倍程度高いことも確認された.1088株30代継代株の全塩基配列を決定し,その配列を親株のそれと比較したところ,計7つの塩基置換が認められ,そのうち3つはアミノ酸置換を伴うもので,さらにそのうち2つはGタンパク質に認められた.これらGタンパク質におけるアミノ酸置換は継代の浅い時期から認められ,加えて,アミノ酸置換の出現と培養上清中のウイルス力価の上昇が一致していたことから,これらのアミノ酸変異はNA細胞への馴化に関与すること,さらに1088株のNA細胞への馴化と末梢感染性の低下との間に関連性があることが推察された.
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