北海道内の動物病院に来院したマダニ寄生犬の血液、およびマダニを採取し、リケッチア属細菌のgltA遺伝子に対するPCR法にて犬およびマダニのリケッチア属細菌の感染状況を調査した。また、ランダムに選んだ犬血漿についてRickettsia helveticaに対するIFAを行い、リケッチア属細菌に対する抗体保有状況を調査した。 マダニ寄生犬の血液29検体のうち、1検体で陽性が認められ、陽性検体の遺伝子配列解析によりRickettsia felis近縁種であることが明らかとなった。犬からは、シュルツェマダニ28匹、ヤマトマダニ11匹が採取され、このうちシュルツェマダニ9匹(32.1%)がR.helveticaを、6匹(21.4%)が'Candidatus Rickettsia tarasevichiae'を保有していた。また、犬血清66検体のIFA検査では11検体(16.7%)が陽性を示した。 犬血液からR.felis近縁種の遺伝子断片が検出されたことから、犬が本種に感染し、また保有宿主となる可能性が示唆された。しかしながら、犬に発熱等の臨床症状は認められず、その病原性については不明であった。日本国内で犬からR.felis近縁種が検出されたのは本調査が最初である。R.felis感染症は人獣共通感染症であり、犬の感染状況についてさらなる調査が必要である。また、シュルツェマダニが北海道における主要な犬寄生マダニ種であり、R.helvetica及び'C.R.tarasevichiae'を高率に保有していることが明らかとなった。リケッチア保有マダニの寄生した犬14頭のうち発熱(39.5℃以上)を示していたのは1頭のみで、また犬からリケッチアが検出されなかったことから、これらリケッチア種の犬に対する病原性は高くない可能性が示唆された。北海道の犬の抗リケッチア抗体保有率は16.7%であり、犬がリケッチア属細菌に曝露される機会が高いことが示された。
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