昨年度に引き続き、北海道内のマダニ寄生犬から血液及びマダニを採取し、リケッチア属細菌に対するPCR法にて犬およびマダニのリケッチア属細菌の保有状況を調査した。さらに、IFAにより犬の抗リケッチア抗体保有状況を調査した。また、犬感染リケッチアの探索のため、エゾリス寄生ノミからリケッチアの検出を試みた。 マダニ寄生犬の血液127検体は全てリケッチア陰性であった。犬からシュルツェマダニ82匹、ヤマトマダニ47匹、チマダニ属マダニ3匹が採取され、シュルツェマダニからのみリケッチアが検出されたことから(R.helveticaが12匹、'Candidatus R.tarasevichias'が10匹、未分離種が4匹)、シュルツェマダニは北海道における主要な犬寄生マダニ種であり、リケッチア属細菌を高率(31.7%)に保有していることが明らかとなった。シュルツェマダニとヤマトマダニの80%以上が5~6月に採取されたことから、この時期に犬がリケッチアに曝露される可能性が示された。しかしながら、リケッチア保有マダニの寄生した犬27頭のうち発熱を示していたのは1頭のみで、犬からはリケッチアが検出されなかったことから、これらリケッチア種の犬に対する病原性は高くないことが示唆された。犬血清158検体のIFA検査では9検体が陽性を示し、犬がリケッチア属細菌に曝露されていることが示された。また、エゾリス寄生ノミからR.felis近縁リケッチア種が検出され、昨年度に犬から検出されたリケッチアとgltA遺伝子の部分配列が一致した。このことは、北海道ではノミが犬のリケッチア感染に関与している可能性を示しており、犬とリケッチアの関係を考える上で重要な所見であると考えられる。
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