犬の脊髄損傷は椎間板ヘルニアや交通事故など外傷性に生じ、臨床現場で日常的に遭遇する疾患である。重症例では予後は悪く、生涯にわたり四肢麻痺または対麻痺となり、動物のQOLは著しく低下する。このような症例に対しては、人の脊髄損傷患者と同様に有効な治療法は存在しない。本研究では、これら重度脊髄損傷犬に対する歩行トレーニングの効果を評価し、最終的にはトレーニング機能を装備した犬用車イス(LTカート)を開発することを目的としている。 初年度であるH21年度は、急性椎間板ヘルニアにより両後肢が完全麻痺した犬症例に対し、従来型の歩行トレーニング(トレッドミルを用いた免荷式歩行トレーニング)を実施し、その効果を評価した。現在までに後肢スコアが0(深部痛覚がなく完全麻痺)の8症例(うち4例は免荷式歩行トレーニングを実施)に対し評価を行った。免荷式歩行トレーニングを行った犬では、通常のリハビリテーションのみを行った犬と比較し、起立までの日数が短縮し、歩行スコアの回復度も優れていた。筋電図およびMRIによるデータ解析は現在進行中である。 また、H21年度はラットと犬用のLTカートの試作も行った。ラットLTカートについてはほぼ完成しておりH22年5月からは脊髄損傷ラットモデルを用いた実験を開始する予定である。犬用LTカートも試作品が完成し、数回の改良の後、重度脊髄損傷犬に対する評価を開始する。
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