本研究では、重度脊髄損傷犬に対する歩行トレーニングの効果を評価し、最終的にはトレーニング機能を装備した犬用車イス(LTカート)を開発することを目的としている。 H23年度は、昨年度作製した脊髄損傷ラットモデルにおける神経線維の修復過程のモニタリングとして、血中ニューロフィラメントの継時的測定を実施した。Spinal impactorによる実験的脊髄損傷後、無治療群における血中ニューロフィラメント濃度は損傷後4日目をピークに上昇し、その後約2週間かけてベースライン値に減少した。BBBスケールにより評価した後肢運動機能が回復したLTカート装着群における血中ニューロフィラメント濃度は、無治療群と比較し、有意な差は認められなかった。同様に通常カート装着群においても他群との有意差は認められなかった。このことから、LTカート装着群で認められた後肢運動機能の回復は、後肢筋群の強制的な運動に誘発された結果であり、損傷神経線維の修復や再生とは無関係であることが示唆された。また、通常カート装着群において認められた後肢運動機能の低下は、カート装着による後肢筋群の廃用性萎縮に起因すると考えられた。各群から採取した後肢筋群筋原線維のタイピングは、染色条件の設定に時間を要したため、現在までに解析が終わっていない。 犬用LTカートを用いた臨床試験は、コントロール群(術後通常のリハビリテーション、n=3)、LTカート群(n=1)、および通常のカート群(n=3)のエントリーが終了し、一部は現在も評価中である。現在のところ、LTカートを適応した1症例の後肢運動機能は他群と比較し、顕著な改善は認められなかった。LTカートの走行性や使用した症例がカート装着に十分に適応しなかったことが一因と考えられ、臨床応用するためには、LTカートのさらなる改良が必要であると考えている。
|