研究概要 |
犬乳腺腫瘍の悪性化機構における上皮間葉化現象(EMT)とその意義を明らかにするため、まず犬乳腺腫瘍自然発症例の組織サンプルを用いてEMT関連因子の免疫染色を行ったところ、乳腺腫ではEMTは見られない一方で乳腺癌でEMTが起こっていることが明らかとなった。犬乳腺腫瘍細胞株においてもEMT関連因子を検索したところ同一症例から分離された細胞株の中から、E-cadherin,β-cateninが高発現し上皮様の性質を示すCHMp13a株と、vimentin、N-cadherinが高発現し間葉様の性質を示すCHMp5b株が得られた。 トランスウェルアッセイにより運動能、浸潤能を評価したところCHMp5b株は有意に高い運動能と浸潤能を示し、EMTと細胞の悪性度との関連が示唆された。より詳細に検討するためにこれら細胞株を用いTGF-β刺激によるEMT誘導実験を行ったところ、TGF-β刺激下でvimentinが一過性に誘導され、その発現動態はSmad2のリン酸化の動態と一致した。またTGF-β刺激EMT誘導による運動能と浸潤能の変化をxCELLigence systemにより経時的に評価したところ、EMT関連因子の発現動態と同様に運動能、浸潤能ともに一過性に上昇を認める結果となった。これらの結果からEMTが犬乳腺腫瘍の悪性化に関与していることが示唆されるもののEMTは不安定で動的なものであり、それには抑制性Smadの発現が関与している可能性が示唆された。今後はRNAiを用いEMTの制御を行いEMTと犬乳腺腫瘍の悪性化の関連を明らかにする実験を移植マウスモデルを用い進め、得られた知見を自然発症臨床例において確認する研究を継続していく予定である。
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