本年度は、犬の悪性黒色腫において高発現している内在性レトロエレメントを同定することを目的とし、cDNAマイクロアレイ解析およびイヌゲノムデータベースを用いたin silico解析により、その網羅的探索を行った。cDNAマイクロアレイ解析には、病理組織学的に悪性黒色腫と診断された4症例の腫瘍組織および比較対照検体として低悪性度黒色腫と診断された1症例の腫瘍組織ならびに悪性黒色腫の1症例から採取した正常口腔組織を用いた。これらの組織検体よりtotal RNAを抽出し、1色法によりcDNAマイクロアレイ解析を行った。現在、悪性腫瘍組織において発現増加が認められた遺伝子群から、他種のレトロエレメントに相同性を有する遺伝子の抽出作業を行っている。一方、イヌゲノムデータベースのin silico解析により、オープンリーディングフレームが保持されたレトロウイルスエンベロープ(Canine Endogenous Retrovirus envelope ; CERVE)遺伝子を同定し、これをクローニングした。RT-PCR法により、4種類の犬の悪性黒色腫由来細胞株のすべてにおいてCERVE mRNAの発現が確認された。一方、2種類のリンパ腫細胞株では、その発現は認められなかった。現在、悪性黒色腫をはじめとした様々な犬の自然発生腫瘍組織におけるCERVE mRNAの発現を検討中である。また、担癌犬血清中におけるCERVE蛋白に対する自己抗体の存在を明らかにするため、および抗CERVE抗体を作製するために、CERVE蛋白発現系の確立に着手している。
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