酸性土壌では、強酸性、アルミニウム・重金属などの金属過剰害、リン酸の不溶化によるリン不足、窒素固定菌の活性低下による窒素不足などが複合して植物の生育阻害が起こり、農業上の問題となっている。特に、アルミニウムは酸性環境下ではイオン化し、細胞膜、細胞壁、DNAなど生体物質へ結合し、植物の根の伸長阻害などを引き起こす。酸性土壌のうち、硫化鉄を多く含む海成粘土層が開墾などにより地表に露出し、これが酸化して生じる硫酸が原因となり、土壌および周辺水域がpH_1~4という強酸性を示す酸性硫酸塩土壌(acid sulfate soil:以降ASS)と呼ばれる土壌は作物植物への影響が特に深刻である。 酸性土壌への対策として、汲上げ水による土壌の洗浄、石灰による酸の中和等が行われているが、処理範囲が膨大でポンプの敷設・管理、大量の石灰の運搬・散布が必要であり、これら対策に多大なコストがかかることから、導入が難しい。 そこで、低コストかつ効率的な新手法、例えば植物根圏で(1)酸性環境の中性化(2)過剰金属の不活化(3)リン酸の可溶化(4)窒素化合物の供給などピンポイントで効果を発揮する酸性土壌適応有用微生物の利用などが求められている。これまでに、ASS適応植物と微生物群が形成する植物・微生物共生体から上記の機能を発揮する多くの植物共生微生物を取得している。その過程で、イネに接種すると300μMアルミニウムイオン存在下でイネの生育を促進する菌株Pullulanibacillus acidipaludis CA42を発見したが、その時、イネの根周囲には著量のバイオフィルムが形成されていた。 本年度は、CA42の生産する多糖(CA42 PS)の構造・機能解析を行った。その結果、CA42 PSはグルコース・ホモポリマーであり、NMR解析やメチル化解析により、その構造を決定した(投稿準備中)。精製した多糖にはアルミニウムイオン吸着能が認められ、ASS適応に関与する可能性が認められた。
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