研究概要 |
1.培養条件の検討 これまでに無菌的な原糸体を得ることに成功したが,その生育は非常に遅く,遺伝子解析における材料の安定供給をするためには効率が悪いものであった.そこで,培地組成の検討として,無機塩の種類や濃度,糖の濃度を変えて培養を行い,ホンモンジゴケの生育に及ぼす影響について調査を行った.その結果,高等植物の培養に広く用いられている無機塩培地や糖濃度でホンモンジゴケの原糸体を培養しても,白色化や褐変化が起こり枯死することが明らかにされた,液体培地を用いた培養では,銅濃度を変えても培養することが可能であることが分かり,原糸体へ均一な処理を与えられることからも,遺伝子解析における銅濃度の違いによる処理は液体培地で行うことが適切であると考えられた. 2.ホンモンジゴケの銅耐性に関与する遺伝子の解析 銅濃度の異なる液体培地でホンモンジゴケの原糸体を一定期間培養し,遺伝子発現解析に用いた.まずランダムプライマーを利用した簡易ディファレンシャルディスプレイ法により発現解析を行ったが,再現性が確認できず,銅耐性に関与する遺伝子のスクリーニングには至らなかった. 逆遺伝学的手法による解析では,ストレス応答や形態形成に関与することが知られている植物特異的転写因子であるNACファミリーの配列を収集し,系統解析を行った.さらに共通配列から設計したプライマーを用いてRT-PCRによる遺伝子発現解析を行った結果,目的とするPCR産物は得られたが,銅濃度の違いにおける遺伝子発現の多型は得られなかった.一方,系統解析の結果,コケ植物やシダ植物のNACファミリーは,被子植物の上流に位置することや独立して存在することが明らかにされた.この結果から,NACファミリーは,植物の進化と共に分岐し,大きなファミリーを形成していったことが示唆された.コケ植物における研究は,高等植物の多岐に渡った機能の原点を解析するためにも有意義であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属機関の変更に伴い昨年度からの培養系の継続等が難しかったこと,震災の影響による年度当初の予算配分の遅れ,研究環境整備に時間がかかったこと,異動初年度で卒業研究生が配属されなかったことなどにより,当初の計画よりもやや遅れた.
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今後の研究の推進方策 |
銅耐性に関与する遺伝子のスクリーニングでは,銅濃度の他に処理時間の検討を行うことも必要だと考えている.逆遺伝学的手法が有効であることが明らかにされたため,重金属耐性に関与する遺伝子の収集と系統解析を行い,目的の遺伝子のスクリーニングを目指す.常に発現しているストレス応答性遺伝子にも注目し,形質転換体の作出も検討していくことで,ホンモンジゴケでの働きについて明らかにする. 異動して1年が経ち,研究環境も整いつつある.卒業研究生も配属されることが見込まれるため,今後は順調に研究が進められると考えている.
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