研究課題
高度に糖鎖付加された組換え型タンパク質は動物細胞を用いて生産されるが、高生産株においては、正しく糖鎖付加されなかった異常タンパク質の割合の増加や、その蓄積による細胞増殖の抑制により、かえって生産性が低下する。この問題を解決するために、様々な研究が実施されてきたが、最近、組換え型タンパク質生産細胞の培養液中にマンガンを添加することが、糖鎖生合成の効率を増大させることが示された。この理由として、ほぼ全ての糖鎖合成酵素(糖転移酵素)がマンガンを活性補因子として要求するためであることが予想されているが、培養液中に高濃度のマンガンを添加することは、たとえ糖鎖生合成の促進に有効であったとしても、その毒性という側面から最善策とは言えない。そこで本研究では、小胞体・ゴルジ体といった分泌経路内へのマンガン供給に機能するトランスポーターを同定し、その発現を増強させることで、複雑な糖鎖構造を持つ組換え型タンパク質の生産性向上に役立てることを試みた。出芽酵母において、マンガン代謝に関係することが報告されているトランスポーターの相同タンパク質の中から、どの輸送体が動物細胞での分泌経路内マンガントランスポーターに相当するのかを明らかにするため、これら候補トランスポーターを欠損させた欠損株をそれぞれについて作成し、その効果について検討した。作成した単独欠損株の中のSPCA1を除くすべての株において、顕著なマンガン代謝異常は観察されなかったことから、脊椎動物細胞においては、SPCA1がマンガン代謝の中心に位置することが予想された。しかしながら、SPCA1欠損株においても糖鎖付加に異常は認められず、他のトランスポーターの関与が考えられた。現在、SPCA1との二重欠損株を作成し、その同定を進めている。
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