研究概要 |
メタセシス反応は多重結合の切断と同時に再び多重結合を形成するという極めて興味深い反応であり、現在の有機合成化学において極めて重要な炭素-炭素結合形成反応である。本研究は有機合成へ利用可能な新しいキラルビルディングブロックの創出を目的として、光学活性メタルカルベン錯体を新たに創製し、それを利用してこれまで全く報告例の無いプロキラルなエンジインを基質とするエナンチオ場選択的エニンメタセシス反応の開発を目指すものである。平成21年度はまず、光学活性含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)配位子を持つルテニウムカルベン錯体を用いて環化反応を検討した。5-benzyloxy-5-ethynylhept-1-en-6-yne誘導体を、Grubbsによって報告されているNHC環上に不斉補助基を有するルテニウム触媒とTHF中にて反応させた。その結果、良好な収率で1,3-ジエン部を有する5員環化合物が得られたものの、生成物はラセミ体であった。また、反応系内に1当量のヨウ化ナトリウムを添加しTHF中加熱環流条件下で反応させたところ、環化体の鏡像異性体過剰率は28%と若干の不斉誘起が見られたものの、反応の進行が極端に遅くなり、収率はわずか5%にとどまった。化学収率及び不斉収率の向上を目指し、種々の添加剤を加えその効果について検討したがいずれも改善には至らなかった。そこで次に、Hoveydaらが開発したビナフチル骨格を有する光学活性ルテニウム錯体を用いることにした。反応溶媒や温度など種々反応条件の検討を加えたところ、エチレン雰囲気下で反応させることによって、環化体が11%の収率、25%eeで得られることが明らかとなった。
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