研究概要 |
環状アミノ酸であるプロリンのアミド結合は三級アミドであり、通常の二級アミドと異なりシス体とトランス体が混在する。プロリンアミドのシス-トランス異性化はタンパク質の活性発現やフォールディングの制御に働く重要な過程である。チオアミド結合にもシス-トランス異性化が存在するが、その異性化障壁の高さからアミドよりも構造制御や異性体観測が容易であると考えられる。本研究では、コンホメーションを固定した二環性β-プロリンのアミドおよびチオアミドのシス-トランス平衡の制御に関する基礎的知見を得ることを目的とした。 これまでに本二環性β-プロリンをチオアミドで連結したホモオリゴマーは、鎖長依存的にトランス体チオアミドを有する伸びたストランド型構造が優勢になること、および溶媒によって異なる構造を取ることが示唆されていたが,シス・トランスコンホマーが混在するため確証が得られなかった。本研究では構造の証拠を得るべく、二環性β-プロリンの橋頭位の片側に置換基を導入し,立体反発によりトランス体が安定化される新規β-アミノ酸の合成を行った。現在までに、合計16ステップの反応によるラセミ体の目的アミノ酸の合成に成功した。このチオベンゾイルアミド誘導体の構造を解析した結果,望みのトランス体コンホマーが90%の存在比となり、橋頭位に置換基を持たない同類体に比べるとトランス体の存在比は大きく向上した。さらに、モデル化合物の研究から、本二環性チオアミドのシス-トランス異性体存在比は橋頭位置換基の種類によって劇的に変化することが判明しつつあり、この結果は同一位置の置換基によるシス体・トランス体の制御(つくり分け)に応用可能であると考えられる。
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