遷移金属触媒を用いた不飽和化合物と有機ボロン酸の反応は、様々な反応が開発されている。これまでに著者等は、白金族金属錯体存在下アレンに対しアリールボロン酸を作用させると、アレンへのアリール基の付加反応が進行することを見出しており、昨年度の研究において本反応を用いた抗菌活性天然物enokipodin Aの全合成を達成している。今回本反応の更なる展開として、天然物アプリシンの合成への応用と連続的環化反応の展開について検討を行った。アプリシンはアメフラシの一種であるAplysia kurodaiから単離された抗酸化作用をもつ化合物で、その構造的特徴としてベンジル位に四級不斉中心を有している。そこで本不斉中心を上述の付加反応、続くクライゼン型転位反応により合成することとした。即ち光学活性アレニルアルコールとアリールボロン酸に対し、パラジウム触媒を用いた選択的付加、続くEschenmoser-Claisen転位を行ったところ、四級不斉中心を持つアミドがエナンチオ特異的に合成できた。その後種々官能基変換を行い、アプリシンの合成を達成した。また、本付加反応を分子内にカルボニル単位を導入したアレニルケトンに対し白金触媒存在下アリールボロン酸を作用させると、アリール基のアレンに対する付加、続くカルボニル基の挿入が連続的に進行し、置換シクロペンタノール及びシクロヘキサノールがジアステレオ選択的に合成できることを見出した。本反応は様々なアレニルケトン、およびアリールボロン酸に対して適用可能である。
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