三価や五価の超原子価ヨウ素化合物は特異な酸化剤として、有機合成化学において多用されている。ところが不思議なことに、触媒量の超原子価ヨウ素化合物を活用する触媒的酸化反応は、数年前まで全く検討されていなかった。三価の超原子価ヨウ素化合物を用いる酸化反応では、一価のヨウ素化合物が常に化学量論量副生するが、これは通常廃棄されてしまう。もし適切な末端酸化剤によって反応系中で生成する一価のヨウ素を三価に再酸化することができれば、使用する三価のヨウ素反応剤は触媒量で十分であるため、合成反応としての価値は飛躍的に向上する。今年度の研究により、研究者は新たに二つの触媒反応を見出すことに成功した。その内容を以下に示す。 1. オレフィンの酸化的切断反応の触媒化 最近研究者は、水存在下に進行する三価の超原子価ヨウ素酸化剤を活用したオレフィンの酸化的切断反応を開発することに成功している。安全なオゾン分解と位置づけることができる興味深い反応であるが、種々検討の結果、本反応を触媒化できることを見出した。すなわち、触媒量のヨードベンゼンとともにm-CPBAを末端酸化剤として使用する条件を用いると、種々のオレフィンの酸化的切断反応が緩和な条件下に進行し、対応するカルボン酸が良好な収率で生成する。 2. 触媒的Hofmann転位反応の開発 一級アミドに三価の超原子価ヨウ素反応剤を作用させると、Hofmann転位が緩和な条件下に進行し、イソシアナートを経由して一炭素減少した一級アミンが生成する。合成化学的に価値の高い反応であるが、今回、適切な反応条件を用いることにより、本反応が触媒的に進行することを見出した。すなわち、1-5mol%のヨードベンゼンをm-CPBA共存下に各種一級アミドに作用させると、対応するアミンが量論反応と遜色の無い収率で得られた。
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