研究概要 |
新たな糖尿病の新規バイオマーカーとして、近年生体内のタンパク質とグルコースなど還元糖との間の非酵素メイラード反応の終末糖化産物AGEs(Advanced Glycation End-products)やその中間体3-Deoxyglucosone(3-DG)が糖尿病患者の血中濃度や腎組織の蓄積が健常人に比べて顕著な高値を示し、また血漿中グルコース及びHbA1cのレベルと良い相関を示すことが報告がされており、糖尿病及びその合併症の進行との関連が示唆されている。しかし、ヒト爪より検出された報告はまだされていない。そこで本年度にはヒト爪中の3-G及びAGEs化合物をターゲットとし、高分解能を持つUPLC-ESI-TOF-MSによる迅速且つ高感度な糖化産物の一斉分析法の開発を行い、爪に存在する糖化産物の選択的な定量法を確立するとともに、非侵襲的なヒト爪の中高齢者の健康管理における役割と慢性疾患リスク軽減への応用を試みた。 糖化反応の中間体である3-Deoxyglucosone(3-DG)、Methylglyoxal(MG)、Glyoxal(GO)を測定対象物とし、その標準品を4種類の標識試薬を用いて標識し、UPLC-ESI-TOF-MSにおいてより高感度分析が可能な標識試薬のスクリーニングを行った。その結果、ESI-TOF-MSで高感度かつ迅速に分析可能な標識試薬4,5-Dimethyl-1,2-phenylenediamine(DMPD)を見出すことができた。DMPDで標識された3-DG、MG、GOは7分以内に良好に分離検出され、検出限界は50fmol以下(S/N=5)、日内、日間変動は5.28%、6.89%以下と良好な値を示した。本法を実試料であるヒト爪に応用したところ、ヒト爪中から初めて糖化反応の中間体である3-DG、MG、GOの検出に成功した。さらに健常者及び糖尿病患者各20人の爪を用いて定量値を比較した結果、MG、GOでは殆ど差が無く、3-DGでは有意差(p<0.001)が認められた。 これらの結果より、本分析法は非侵襲的な糖尿病診断の一手段となる可能性が示唆され、非侵襲的なヒト爪は糖尿病など慢性疾患診断の新規臨床分析試料としての有用性が示唆された。
|