本年度では前年度から続いている緩和な条件下で効率的なDNA伸長反応が進行するRCA(Rolling Circle Amplification)法について、その鋳型となる環状一本鎖DNAの大量調製法を検討した。特に本年度では生体内において一本鎖で機能しているRNAの特性の利用を検討した。即ち、PCRから得られた二本鎖DNAを鋳型として転写反応により大量のRNA(一本鎖)を得る。更にこのRNAを鋳型とした逆転写反応により、相補的なcDNA(一本鎖)を得る方法を検討した。その結果、転写反応により大量のRNAを得ることに成功した。しかし第2ステップにおいて種々の逆転写酵素を検討したが、そのいずれも逆転写反応の効率が悪く、また不完全長のcDNAも多く含まれることから目的とする一本鎖DNAの大量調製法の開発には至らなかった。より高効率な逆転写酵素の探索や開発、更にその反応条件の最適化により実現可能と予想される。 次にRCA法によるDNA増幅反応を生物発光検出する方法について検討した。平成21年度に開発した方法により鋳型となる環状一本鎖DNAを調製した。本手法は大量調製法ではないものの、RCA法の開発には充分である。その環状一本鎖DNAを用いてRCA法に最適なDNA合成酵素を検討した。酵素に望まれる特性としては、連続したDNA伸長反応により構築される二本鎖DNAを解離して伸長する「鎖置換活性」とシグナル増幅に関与する「伸長反応速度」である。「鎖置換活性」を有する酵素が少ないため、4種類のDNA合成酵素について検討した。その結果、各酵素において経時的な生物発光シグナルの増加を観測した。Bst DNA polymeraseではエンドポイント測定による生物発光検出が可能であることが示唆された。Phi29 DNA polymeraseは高い鎖置換活性を示すが、高いDNA修復能力(校正機能)も有しているために伸長速度が遅く、緩やかに発光強度が増加していると考えられた。Bsu DNA polymerase及びExo-klenow DNA polymeraseでは同様な発光シグナル挙動を示した。RCA条件の最適化及び標識に用いるDNAの検量線の作成やイムノアッセイの検出系への応用について今後検討する予定である。
|