本研究は、「生体内により近い条件での電気化学測定系の構築」を目的としている。電気化学活性種の酸化還元電位の測定はその性質や反応性を評価する上で重要である。通常、脂溶性の高い化合物は有機溶媒を用いて酸化還元挙動を観測するが、用いる溶媒や支持電解質の性質が測定に影響を及ぼすことが知られており、測定値の比較には媒体の統一が求められる。本研究は、脂溶性物質を懸濁液・乳液として水中へ分散させて酸化還元挙動を直接観測する電気化学分析法の開発を目指している。平成21年度実施した研究の成果は以下のとおりである。 脂溶性薬物・化合物を導入したリポソーム懸濁液の調製方法の検討と電気化学測定:大豆由来レシチンを用いて分析目的の物質含有リポソーム懸濁液を調製した。生理活性キノン(Lapachol、VK1)、およびフェロセン類含有のリポソーム懸濁液を調製し、緩衝液中・pH7~12の間での安定性を確認した。化合物導入方法は膜作成時とリポソーム形成後との両方を検討したが、膜作成時の段階での導入の方が良い再現性を示した。さらに参照電極に水系(Ag/AgCD、作用電極はグラッシーカーボンをもちいて目的物質含有リポソーム懸濁液の酸化還元挙動を測定した。リポソームのみのバックグラウンド電流を差し引くと、鮮明な酸化還元波が得られ、リポソームの脂溶性部分に留まっている脂溶性キノン類も2電子2プロトンの酸化還元挙動を示すことが明らかとなった。比較データとしての有機溶媒中での測定には脱水アセトニトリル(参照電極二非水系(Ag/AgNO3)を用いた。
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