がん微小環境を利用して、血中滞留性および細胞親和性の高い薬物送達ナノ粒子を開発するために、腫瘍内pHが生理的条件に比べて低いことに着目し、この低pHに応答して膜物性が変化するナノ粒子を構築することを目的とした。つまり、生理的pHでは、生体成分との相互作用の低い負電荷粒子であるのに対して、腫瘍低pHでは表面電荷が正に転換するナノ粒子である。第一世代として、pH応答性脂質コレステロールコハク酸をベースとしたナノ粒子を構築したところ、生理的pHでは負電荷粒子であったのに対して、pH 5.5では表面電荷が正に転換するだけでなく、細胞内取り込みが促進された。しかし、本ナノ粒子は腫瘍環境よりも低いpHの場合に応答性を示すため、腫瘍低pH領域での応答性を保持させるために、第2世代として、新規のpH応答性ペプチドをコンジュゲートさせたナノ粒子を構築した。このナノ粒子は腫瘍低pH(pH 6.5付近)において、表面電荷が負から正への転換が認められた。さらにナノ粒子を蛍光標識し、フローサイトメトリーおよび共焦点レーザー顕微鏡観察により細胞親和性を評価した結果、pH 6.5以下において、細胞内取り込みが著しく促進された。本ナノ粒子は、癌の特異的環境を利用し、薬物キャリアーの課題であった血中滞留性と細胞親和性の向上を両立できるだけでなく、癌細胞への標的化も可能であり、本研究で得られた知見は癌に対するDDSを開発する上で有用であると考えられる。今後は、構築したナノ粒子に薬物(抗癌剤およびsiRNA)を封入し、腫瘍低pHにおける機能性を評価する予定である。
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