研究代表者らは、褐色脂肪組織から単離した未分化細胞を正常な褐色脂肪細胞に分化させる初代培養系を確立しており、さらに培養条件によっては、白色脂肪細胞様の特徴を有する脂肪細胞に分化するという非常に興味深い現象を見出した。しかしながら、本研究開始当初に見いだした白色脂肪細胞様に分化させるための培養条件・培地組成が、正常な褐色脂肪細胞へ分化させる際に使用するものとは比較的多くの点で異なるため、そのまま解析を進めても培地組成の違いによる影響が大きく、目的とする正常な分化を支配する鍵因子を同定することは困難と思われた。そこで、まず最初に、正常な褐色脂肪細胞に分化させるための培養条件・培地組成を一つずつ変化させることで、白色脂肪細胞様への分化を決定づける細胞外因子を同定するための検討を行った。その結果、培地中のインスリン濃度の相違によって、正常な褐色脂肪細胞あるいは白色脂肪細胞様のいずれに分化するかが決定されていることを見出した。 正常な褐色脂肪細胞が、その機能を完全に消失して白色脂肪細胞様に変化するという特異な現象が、インスリン濃度という極めて単純な要因によって引き起こされるという結果は予想外であり、生体は、そのエネルギー状態に応じて脂肪細胞の機能を巧みに制御し、過剰な蓄積や消費を防いでいることが示唆された。現在、インスリン濃度の相違によって引き起こされる分化過程における遺伝子発現変動の相違を解析しており、これによって正常な分化を制御する細胞内の鍵因子が同定できると考えている。
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