私はこれまでの遺伝子改変マウスを用いた研究から、生理活性脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)が体毛形成に深く関与していることを明らかにしてきた。しかし、LPAがどのような分子メカニズムを介して体毛形成に関与しているかは依然不明のままである。前年度までの本研究の結果から、LPAの下流でTGFαおよびEGF受容体の活性化を介して体毛形成過程に関与することが示唆された。そこで、研究2年目にあたる本年度において、膜型前駆体TGFαの切断酵素の機能制御に着目した解析を行った。また、体毛形成におけるLPA受容体であるP2Y5に対する受容体のアゴニストの開発も進めた。 (1)LPAによる体毛形成のメカニズムの解明LPA産生酵素PA-PLA1αノックアウトマウスと類似の体毛異常を示すマウスの検索から、TACEと呼ばれる膜型プロテアーゼに着目した。TACEとPA-PLA1αの免疫組織染色を行うと、毛包の特異的な層に共発現することがわかった.培蕃細胞を用いてTGFαの切断に対する活性を調べたところ、RNAiによるTACEの発現抑制によりLPA依存的なTGFαの放出が抑制された。従って、LPAはTACEの活性化を介して膜型TGFαの切断と放出に関与することが示された。 (2)LPA受容体P2Y5アゴニストの開発前年度までにTGFαの切断・放出を利用したP2Y5の活性測定系を用いて、約120種類のLPAアナログのアゴニスト活性を調べた。今年度はこの構造活性相関を元に、2-アシル型かつホスファターゼ耐性なLPAアナログの有機合成を共同研究で行い、P2y5に対する活性を評価した。その結果、P2Y5は2-アシル型LPAアナログに高い選択性を示し、ホスホチオール基(ホスファターゼ耐性)によっても強く活性化された。従って、これらの構造を持つLPAアナログは皮膚への投与で体毛形成の促進作用を有する可能性が期待される。
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