歯状回顆粒細胞の軸索である苔状線維は通常CA3野へ投射する。しかし、側頭葉てんかん患者の歯状回では、苔状線維が多数の側枝を形成し、その後分子層へと投射する異常発芽が頻繁に観察される。異常発芽の形成には細胞内ミトコンドリアの分布異常による軸索形態制御の不全が関与すると仮説し、この検証をおこなった。まず、苔状線維内でのミトコンドリアの局在を可視化するために、細胞膜移行性AcGFP及びミトコンドリア移行性DsRed発現プラスミドそれぞれを電気穿孔法により、培養切片中の顆粒細胞に同時に導入した。これにより、異常発芽の形成過程とミトコンドリア動態を経時的に同時に共焦点顕微鏡で観察することが可能になった。本系において、側枝形成とミトコンドリアの局在の関連を検証したところ、ミトコンドリアの局在部位から新たな側枝が出現する様子が観察された。次に、GABA_A受容体の阻害薬を処置することにより、培養切片にてんかん様状態を誘導したところ、苔状線維内のミトコンドリアの密度が上昇し、最終的な異常発芽の形成が確認された。てんかん様状態においてミトコンドリアの局在を制御する因子として脳由来神経栄養因子(BDNF)の関与を検証した。まず、BDNFを被覆した微小ビーズを苔状線維に接触させると、その接触部位にミトコンドリアが局在し、その後、同部位より新たな側枝が形成される様子が観察された。これらの現象は、Trk受容体の阻害薬であるK252a及びBDNFの機能阻害抗体の存在下では確認されなかった。最後に、異常発芽の形成へのATPの関与を検証した。まず、ピクロトキシンによる苔状線維の側枝の形成は、ATP産生阻害薬であるCCCP又はFCCPの共処置によって抑制された。さらに、電気穿孔法を用いてATPを顆粒細胞内に直接注入したところ、苔状線維の側枝数が増加した。
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