歯状回顆粒細胞の軸索である苔状線維は通常CA3野へ投射する。しかし、側頭葉てんかん患者の歯状回では、苔状線維が多数の側枝を形成し、その後分子層へと投射する異常発芽が頻繁に観察される。異常発芽の形成には細胞内ミトコンドリアの分布異常による軸索形態制御の不全が関与すると仮説し、この検証をおこなった。我々は前年度中に、てんかん様状態を誘導した海馬切片培養系において、苔状線維の異常発芽には、BDNFによって局在化されたミトコンドリアによるATPの供給が必要であることを示した。今年度は、培養切片内の近接する顆粒細胞のBDNF発現レベルを調整することで、BDNFの由来を検証した。具体的には、一方の顆粒細胞のBDNF発現量をRNA干渉法で抑制したところ、同顆粒細胞由来の軸索終末と、もう一方の顆粒細胞の苔状線維の接触部位からの異常発芽形成が抑制されることを示した。逆に、一方の細胞のBDNFの発現を上昇させた場合には、他方の細胞における異常発芽の形成が促進された。これらのことから、てんかん様状態において、BDNFは顆粒細胞の軸索(苔状線維)終末より放出され、これが近隣の細胞の苔状線維に作用し、異常発芽が誘導されることが示唆された。現在、以上のデータを纏めて国際論文に投稿し、審査の後、改訂実験を遂行中である。
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