II型PAFアセチルハイドロラーゼ(PAF-AH2)は酸化リン脂質を選択的に分解するホスホリパーゼA2である。申請者はPAF-AH2のノックアウト(KO)マウスの解析からPAF-AH2は生体膜中に生じた酸化リン脂質を選択的に加水分解するとともに、生理活性を有する酸化脂肪酸を生成する酵素であることが示唆された。本研究では、PAF-AH2 KOマウスおよび培養細胞を用いて、酸化ストレス時に非酵素的に産生される「生理活性を持つ酸化脂肪酸」の産生経路および作用機構を分子レベルで解明することを目的とする。 本年度においては、PAF-AH2による「生理活性を持つ酸化脂肪酸」の産生機構の解明を目的として、PAF-AH2細胞膜への移行メカニズムの解析を行った。申請者は、培養細胞において、酸化ストレス時にPAF-AH2が細胞膜へ移行することを見出している。そこで、PAF-AH2の細胞膜への移行が、動物個体においても起こるかを検討した。その結果、LPSを腹腔投与したマウスの腎臓において、PAF-AH2の膜画分への移行が起こることを見出した。またPAF-AH2と相互作用するタンパク質を同定するために、293細胞に発現させたPAF-AH2を免疫沈降し、共沈降物をLC-MS/MSにより解析した。その結果、PAF-AH2と相互作用する分子としてペルオキシレドキシン2など複数のタンパク質を同定した。LPSはToll-like receptor 4を介して、NFκBやMAPキナーゼなどの細胞内シグナル伝達を活性化させる。これらのシグナル経路がPAF-AH2の膜移行に関与しており、その下流で「生理活性を持つ酸化脂肪酸」が機能している可能性が考えられる。これらの点について、同定したPAF-AH2相互作用タンパク質との関連を含めて、さらに解析を行っていく予定である。
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