高齢化社会を迎え、アルツハイマー病(AD)は大きな社会問題となっている。その発症機序には、β及びγセクレターゼによる2段階の切断によりAmyloid precursor protein (APP)から生じるAβ分子の患者脳内での蓄積が深く関与している。申請者らは脂質セカンドメッセンジャーとして機能することが知られるSphingosine-1-phoaphate (S1P)の産生酵素であるSphingosine kinase (SPHK)がβセクレターゼを介してAβ産生機構影響を与えることを見出していた。本年度は細胞内S1Pの量が実際にβセクレターゼ活性に影響して、AD発症に寄与する可能性があるか検討することを主眼として以下の研究を進めた。 1.S1P代謝酵素によるβセクレターゼ活性制御機構に対する影響の解析 2.SPHKの過剰発現がAβ産生機構に与える影響の解析 結果として分子機構の異なるS1P代謝酵素であるSGPL1、SGPP1の発現によりヒト由来のAβおよびβセクレターゼ産物であるβCTFの産生が有意に抑制されることを見出した。またSPHKの一つであるSPHK2の発現は酵素活性依存的にAβ、βCTF産生を増加させることが明らかになった これらの結果から、これまでに明らかでなかったSPHK/S1Pシグナル、特に細胞内S1Pの量が神経細胞におけるβセクレターゼの活性を制御していることが示唆された。S1P量は免疫応答、神経細胞へのストレスなどにより影響をうける可能性があることから、AD発症機構に関与していることも考えられる。 本研究成果から、今後SPHKおよびS1P代謝酵素をターゲットとしたAD根本治療薬の創薬につながることが期待される。
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