新薬を開発するためには、動物病態モデルを用いた候補化合物の治療効果の評価が必要である。特に、糖尿病のように、インスリンなどのホルモンが肝臓、骨格筋など複数の組織に影響を与えるような疾患に対する治療薬の開発においては、個体を用いた評価が重要である。 本研究の目的は、糖尿病モデルカイコを用いた新たな血糖降下物質の探索と血糖調節機構の解明である。 我々が開発した、カイコ幼虫を高血糖にする技術を応用して、血糖値を低下させる作用が報告されている生薬、もしくは食品から新たな血糖降下物質の精製を行う。また、血糖降下物質の作用機序を解明し、新たな血糖調節機構の解明を目指す。 平成21年度において我々は、高血糖カイコを用いて血糖降下活性を有する生薬の検索を試みた。その結果、生薬のひとつであるジオウ(地黄)に高血糖カイコの血糖値を低下させる作用があることがわかった。ジオウは、血糖値を低下させる作用があることがヒト、ウサギ、マウスを用いた解析から示されているが、どの成分が血糖値を低下させる分子であるか不明であった。そこで、我々は、高血糖カイコの血糖値を低下させる活性を指標に、ジオウに含まれる血糖降下物質の分離、同定を試みた。その結果、単糖であるガラクトースに高血糖カイコの血糖値を低下させる活性があることが明らかとなった。さらに、我々は、ガラクトースが糖尿病モデルマウスに対しても血糖降下作用を有することを明らかにした。これまでに、ガラクトースに血糖降下活性があるという報告はない。また、本研究は、無脊椎動物糖尿病モデルを用いて、哺乳動物に対する血糖降下物質が同定できることを示す初めての知見となった。 今後は、ガラクトースによる血糖降下機構を明らかにする予定である。
|