研究概要 |
本研究では、遺伝子発現制御からp53を介するアポトーシス経路の分子機構の解明を目指す。本年度の研究計画である「リン酸化型p53とp62, TFIIEαの結合」に関しては、UV処理またはアドリアマイシン処理を行ったヒト乳癌由来MCF-7細胞を経時的(0,0.5,1,2,4,8,12,36,48時間)に回収して、細胞抽出液を調製した。DNA損傷刺激により、速やかにp53は安定化されて、およそ12時間で細胞内のタンパク質量がピークとなった。また46番目セリンリン酸化型p53タンパク質は、4時間後から急激に増加して8~12時間後にピークとなった。このような抽出液で、抗p62抗体を用いて免疫沈降実験を行うと、p62と共沈するp53タンパク質のピークは、DNA損傷処理4時間後であった。つまり、単に細胞内のp53タンパク質が増加したことにより、p62と共沈するp53が増加したのではないことが分かる。また46番目セリンリン酸化型p53の急激な増加が見られるDNA損傷処理4時間後において、p62と共沈するp53タンパク質のピークがあることから、46番目セリンリン酸化型p53が応答する経路の初期段階で、p62と直接または間接的に相互作用して、機能する可能性が示唆された。これまでにp53の46番目セリンのリン酸化は、p53 AIP1遺伝子の転写の活性化およびアポトーシス経路に関わることで、細胞の癌化を抑制するための非常に重要な経路であることが報告されている。しかしその分子機構は報告されていない。この経路に基本転写因子TFIIEとTFIIHによる転写制御が関わる可能性が示されたことは、p53標的遺伝子の選択性を解明するという非常に重要な意義も含んでいると考える。
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