内在性のR-Rasは神経細胞において、軸索が伸長する時期に強く活性化され、またその細胞内局在は軸索に限局している。また、R-Rasを欠失させた神経細胞では軸索の形成が著しく阻害される。一方、Plexin-B1はそのR-Ras GAP活性により軸索の反発作用を発揮する。このことから、R-Rasが軸索ガイダンス作用において決定的な役割を果たしており、その活性調節がガイダンス因子の作用に必要であると考えられる。しかしながら、R-Rasがどのような機序で軸索の伸長を引き起こすのか、またどのような分子機構で細胞接着や細胞膜伸展に必要な細胞接着因子受容体、インテグリンを活性化するのかはいまだ明らかではない。申請者はこれまでに、細胞が細胞外マトリックスに接着するとR-Rasが活性化され、活性化されたR-Rasがインテグリンを活性化して細胞膜が伸展し、Plexin-B1はこのR-Rasによるインテグリンの活性化を抑制することにより、軸索伸長を阻害し、反発作用を発揮することを明らかにした。今回、申請者はさらに、R-Rasがどのような分子機構でインテグリンの活性化を引き起こすのかを検討し、R-Rasの下流でインテグリンを活性化するためのR-Ras特異的なエフェクター分子を同定した。R-Rasによるインテグリン活性化のエフェクターはモーター蛋白質であるMyo7aであり、Myo7aがR-Rasと結合し、その結合がMyo7aのモーター活性を促進することにより、Myo7aの積み荷であるインテグリンの細胞の先導端への輸送を効率よく行うことを明らかにした。
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