食道扁平上皮癌(Esophageal squamous cell carcinoma ; ESCC)の臨床サンプル(n=82)を用いてmiR-210の発現量を定量したところ、正常組織と比較して癌組織において発現量が有意に低下しており、特に低分化のESCCにおいてmiR-210の発現量が低下していた。さらにESCC由来細胞株(KYSE-150、170、190)と正常組織由来の初代培養細胞(HE3、HEEpiC)を用いてmiR-210発現量を比較したところ、同様にいずれのKYSE株においてもmiR-210の発現量が顕著に低下していた。そこでKYSE-170細胞株に合成miR-210を導入した際の細胞増殖への影響を調べた。WST-1 assayおよびBrdU取り込み実験を行った結果、miR-210の導入によりESCCの細胞増殖が阻害された。また、その際にG1/G0期及びG2/M期における細胞周期停止とアポトーシスが誘導されることを見いだした。 miRNAはmRNAの3' UTRに相補配列依存的に結合してその標的mRNAの分解及び翻訳を阻害する。そこでmiR-210がESCCの細胞増殖を抑制しているメカニズムを明らかにするためにマイクロアレイ解析を用いて標的mRNAの同定を行った。その結果、3' UTRにmiR-210の標的となりうる配列を有し、かつ、miR-210を導入により最も発現が低下する遺伝子はFGFRL1であった。そこで、FGFRL1がESCCの細胞増殖に関与するかどうかを検証した。small interfering RNA(siRNA)を用いてFGFRL1の発現量をmiR-210導入時と同様の約1割程度にまで低下させたところ、WST-1 assayにおいて値が有意に低下し、FGFRL1がESCCの細胞増殖を促進していることが示唆された。さらに3' UTRを削ったFGFRL1を過剰発現させるとmiR-210の増殖抑制効果が有意に回復することが明らかとなった。以上の結果より、miR-210は主にFGFRL1の発現を制御することでESCCにおいてtumor suppressive miRNAとして機能している可能性が示唆され、miR-210の発現低下が低分化の癌において細胞増殖が亢進している一因である可能性が示唆された。
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