ミクログリア特異的発現を示すプローブ開発の手段としてIba1遺伝子上流配列をプロモータを利用し、ミクログリア特異的に蛍光タンパク質を発現させるためのウイルスベクターを構築した。このベクターを用いて脳組織細胞の混合初代培養系に遺伝子導入を試みたところ、ミクログリアの他のマーカー遺伝子であるCDllb陽性細胞優先的に蛍光タンパク質の発現が見られた。また、蛍光タンパク質以外にも、部位特異的に遺伝子発現制御する遺伝子改変動物で頻繁に用いられているcre-loxpシステムに注目し、Iba1遺伝子上流配列をプロモーターとしてcre組み換え酵素を発現するベクターを構築した。このベクターをEGFPレポーターマウスの脳から得られた培養組織切片に微量注入したところ、培養6日後からEGFP陽性細胞が観察されることを見出した。つまり、今回開発したベクターを使うことにより生体に極めて近い組織培養という条件においてもミクログリア特異的な遺伝子発現制御技術を得ることができる。 一方で、P2Y12受容体の活性化とミクログリアの活性化様式との関連性について、炎症関連物質であるCCL2、CCL3、TNFαの産生・放出を解析したところ、初代培養ミクログリアにおいてCCL2、CCL3の産生・放出がP2Y12受容体の活性化によって誘導されることを見出した。また、新規合成に依存しないTNFαの細胞外放出がP2Y12受容体アゴニストで惹起されることを見出した。これまでにミクログリアからの炎症性物質の産生・放出には高濃度の細胞外ATPによるP2X7受容体の活性化が必要であるという認識が一般的であったが、ATPの分解産物であるADPをアゴニストとし、より低濃度で活性化されるP2Y12受容体によってもミクログリアの炎症性応答が見られることを明らかにした。この発見は激しいATP漏出・放出を伴わないような組織傷害時にも、P2Y12受容体を介したミクログリアの炎症性応答が引き起こされる可能性を示しており、P2Y12受容体を標的とした創薬の可能性を明確に示すものである。
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