私たちはこれまで、アルツハイマー病発症に関わるAβの前駆体タンパク質APPが、ERADに関与するユビキチンリガーゼHRD1の基質となることを明らかにした。さらに、アルツハイマー病患者の大脳皮質において、HRD1のタンパク質が不溶化により減少していることを見出している。今回私たちは、HRD1タンパク質減少の原因として、種々の酸化ストレスや小胞体ストレスなどを検討したところ、HRD1およびHRD1と複合体を形成するSEL1Lが、過酸化水素で不溶化することが明らかとなった。一方、小胞体ストレスではHRD1とSEL1Lの不溶化が認められなかった。この結果より、アルツハイマー病の発症機構として、酸化ストレスによるHRD1とSEL1Lの不溶化と、それに伴うERADの破綻が関与する可能性を新たに示された。また、HRD1の減少とアルツハイマー病発症の関連性を明らかにするため、HRD1のノックアウトマウスがアルツハイマー病の症状を呈するか検討した。その結果、HRD1ノックアウトマウスで、記憶力が低下する傾向が認められた。一方、Aβの産生量に関しては、HRD1ノックアウトマウスで低下する傾向にあった。このAβ産生に関する結果は、神経細胞における結果と相反するものとなった。これらの結果に基づいて考察すると、HRD1はAβの産生に必要であり、さらに記憶学習機能に重要であることが示唆される。 今後これらの結果に関して、さらにノックアウトマウスの例数を増やし、様々の実験より検証する必要がある。
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