チロシンキナーゼJAK2はサイトカインシグナルにおいて中心的な役割を担い、その制御機構の破綻が、多くの疾患の原因と成り得ることが知られている。JAK2の点変異体(V617F)は、真性赤血球増加症の患者遺伝子より見出され、同変異体の過剰発現が血球細胞の無秩序な異常増殖を引き起こすことが報告されている。本研究では、JAK2変異体が転写因子STAT5を恒常的に活性化することを見出し、STAT5の活性化を阻害するエリスロポエチン受容体変異体(HM)を作成することにより、JAK2変異体による発がんシグナルに及ぼすSTAT5の役割を検討した。興味深いことに、STAT5が阻害されると、JAK2変異体による細胞の異常増殖およびヌードマウスにおける腫瘍形成が顕著に抑制されることが明らかになった。また、STAT5の恒常的活性化型変異体を導入したBaF3細胞は、無秩序な細胞増殖を誘導し、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成した。これにより、in vitroだけでなくin vivoにおいても、STAT5の活性化がJAK2変異体による発がん機構に重要な役割を果たすことが示唆された。これらの結果より、JAK2変異体の発がんシグナルにおいて、STAT5の標的遺伝子が重要な役割を果たしている可能性が極めて高いと期待される。しかしながら、現在において、重要な役割を果たす遺伝子群の実体は不明である。現在、真性赤血球増加症患者より樹立された細胞よりcDNA発現ライブラリーを作成しており、JAK2変異体の下流シグナルにおいて発現誘導され、真性赤血球増加症の発症機序に関与する遺伝子群を包括的に解析することを計画している。
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