真性赤血球増加症患者において同定されたチロシンキナーゼJAK2の点変異体(V617F)が、異常な赤血球分化・細胞増殖・腫瘍形成を誘導する強力な癌遺伝子であることを報告してきたが、JAK2変異体が誘導するがん化シグナルの分子機構は不明であった。したがって、JAK2変異体のシグナル伝達機構を解析することにより、真性赤血球増加症の発症機構を分子レベルで理解することを目的とした。これまでに、JAK2変異体が恒常的な活性化型であり、転写因子STAT5やセリン・スレオニンキナーゼであるAktの恒常的な活性化を誘導することを見出しており、がん化シグナルにおけるこれらの分子の機能を解析した。STAT5をノックダウンすると、JAK2変異体を発現した細胞では、アポトーシスが誘導され、ヌードマウスにおける腫瘍形成も顕著に抑制されることが明らかになった。また、STAT5の恒常的活性化型変異体を発現したBa/F3細胞は、増殖刺激に依存しない細胞増殖を示し、腫瘍形成能を有することを示した(J Biol Chem 2010)。続いて、STAT5の標的遺伝子がJAK2変異体のがん化シグナルに重要であると考え、JAK2変異体により発現誘導される遺伝子群をDNAアレイ法により網羅的に同定した。現在までに、癌原遺伝子c-Mycやセリン・スレオニンキナーゼAurkaが、JAK2V617F変異体によりSTAT5の活性化を介して発現誘導されることを見出しており、それらの生理機能を解析している。また、JAK2変異体の下流において、Aktは、CREBやGSK-3βのリン酸化を誘導することにより、抗アポトーシス因子であるBcl-XLやMcl-1の発現上昇を誘導し、抗アポトーシス作用に寄与することを報告した(Cell signaling 2010)。
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