研究代表者は、これまでの研究で、新規カンナビノイド受容体として報告されたGタンパク質共役型受容体GPR55の内在性リガンドが、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルイノシトール(LPI)であることを明らかにした。また、最近、GPR55がマリファナの主要活性成分であるΔ^9-テトラヒドロカンナビノール(Δ^9-THC)に反応することを見出した。更に、GPR55との間に30%のホモロジーがあるGPR35もΔ^9-THCに反応することも分かった。興味深いことに、GPR35遺伝子とGPR55遺伝子は同一染色体上の比較的近い場所に位置している。これらの事実も、GPR35の内在性リガンドとGPR55の内在性リガンドとの間に、何らかの構造上の関連がある可能性を示唆するものである。今回の研究では、この点に注目し、脂質関連化合物の中からGPR35の内在性リガンドの候補を探索した。その結果、GPR35を発現しているHEK293細胞にリゾリン脂質の一種である2-アシル型のリゾホスファチジン酸(LPA)を加えると、細胞内カルシウム応答やERKのリン酸化が著しく増大することが明らかとなった。2-アシル型LPAは、受容体分子の細胞内への取り込みも促進した。同様の効果は、他のリゾリン脂質を加えた場合には観察されなかった。これらの結果は、2-アシル型LPAがGPR35の内在性リガンドとして機能している可能性を強く示唆するものである。一方、GPR35は小腸などの消化器系や脾臓に比較的多量に発現していることが確認された。GPR35の生理的役割はまだよく分かっていないが、欠損すると精神遅滞や骨異形成を引き起こす可能性が指摘されている。このほか、GPR35は胃がんや2型糖尿病、痛覚の調節、ある種の心疾患に関与しているのではないかとの報告もある。2-アシルLPAはGPR35リガンドとして、細胞の正常な分化・増殖等に、あるいは様々な疾病の成立に深く関与している可能性が高い。
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