マウス胎児由来初代培養神経細胞におけるGABAB受容体の783番目のセリン残基のリン酸化(p783)がグルタミン酸受容体の作動により増加するメカニズムを解明するため、より興奮性毒性に対する応答が良い培養条件を検討することにした。初代培養方法には種々あるが、現在もっともポピュラーといえるNeurobasalにB27サプリメントを添加した培養条件では、p783はほとんど検出されなかった。一方、DMEM/F12を基礎培地とした条件ではp783が強く認められた。後者の条件では培養6-8日目以降、アポトーシスが起こり始めることから、この培養条件ではグルタミン酸等による興奮性毒性が生じ、それに応答してp783がリン酸化しているのではないかと推察された。 神経系幹/前駆細胞(以下、神経系前駆細胞)は、レチノイン酸曝露により、神経細胞に分化誘導可能な細胞である。分化誘導された神経細胞には、グルタミン酸作動性およびGABA作動性神経が含まれていることが知られている。したがって、中枢神経系の発達段階のAMPK及びGABA受容体の重要性を調べる目的で、本年度は分化前の神経系前駆細胞の単離・培養と、AMPK・GABA及びそのリン酸化を中心に培養条件を検討した。マウス胎児から調製した神経系前駆細胞には、AMPKが発現していること、およびそのリン酸化が同細胞に特徴的な細胞塊、ニューロスフェアの形成に応じて増加することが判明した。AMPK活性化剤メトホルミンあるいはAMPK活性阻害剤C化合物を曝露すると、神経系前駆細胞の増殖はそれぞれ促進あるいは抑制されることが判明し、AMPKの活性依存的な増殖制御の可能性が示唆された。このリン酸化にはリアノジン受容体からのカルシウム流出が関与する可能性が示唆された。今後はこれら神経系前駆細胞の分化誘導を行い、AMPKによりGABAB受容体のリン酸化への影響の解析へと移行したい。
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