病態形成に関与する細胞死にはアポトーシスが重要な役割を担うと考えられている。一方、アポトーシスだけでは説明のつかない現象も多数報告され、細胞死制御による治療ストラテジーを構築するには、アポトーシスと非アポトーシス型細胞死の両者を視野に入れ、疾患をより詳細に解明する必要があると考える。本年度は、虚血誘発心筋細胞死に焦点を当て、非アポトーシス型細胞死の病因的役割を解明し、これに基づいた心筋保護薬を検討した。低酸素下、グルコース濃度を変化させることにより、in vitro虚血心筋誘発非アポトーシス型細胞死モデルを作成した。低酸素・低グルコース条件下では、calcium-independent phospholipase A_2の発現・活性を伴うcaspase非依存性非アポトーシス型心筋細胞死が観察された。さらに、低酸素条件下、グルコース濃度と時間依存的にオートファゴソームの形成が促進し、Beclin-1を介したオートファジーを伴う心筋細胞死が誘発された。オートファジーを阻害すると、アポトーシスによる心筋細胞死の充進が観察された。このことから、オートファジー機構はアポトーシス機構とリンクして細胞死制御に関与し、虚血ストレスに対して、防御機構として働いている可能性が示唆された。現在、過剰発現させたオートファジーや膜輸送関連タンパク質の機能・局在と細胞の表現型を指標として、オートファジーにおける膜動態を明らかにすることにより、心筋細胞死における新たな細胞死機構について詳細な検討を進めている。一方、虚血心筋に対する17-β-estradiol(10nM)の保護効果を検討したところ、アポトーシスを著しく抑制し、虚血障害を改善した。しかし、オートファジーを減弱した状態では、17-β-estradiolの心筋保護効果は消失し、アポトーシスの亢進が観察された。このことから、17-β-estradiolの心筋保護作用には、オートファジーの制御が関与している可能性が示唆された。
|