虚血性心疾患の基礎病態は心筋細胞死であるが、虚血による細胞死の分子機序について未だに詳細は不明である。虚血による細胞死は、ATPのレベル低下によるエネルギー代謝の障害が主な原因である。本研究では、生物にとって重要なエネルギー源であり、生体のエネルギー状態を伝えるシグナル分子として重要な働きをしているグルコースに焦点を当て、低酸素条件下、培地中グルコースの濃度変化によるオートファジー誘導への影響を評価し、虚血心筋細胞の細胞死機構におけるオートファジーの誘導意義について検討した。培地中のグルコースを欠乏させた条件下において、オートファジーは誘発されず、虚血6時間後から著しい核の収縮とCalcium-independent phosphohpase A_2 (iPLA_2)の活性増加を示すCaspase非依存性非アポトーシス型細胞死が観察された。ニューロペプチドUrocortin(~10nM)を虚血処置前1時間投与したところ、虚血誘発核収縮は消失し、LDHの遊離を有意に抑制した。さらに、この細胞死抑制の機序として、Urocortin前投与によるiPLA_2の活性抑制作用を見出し、非アポトーシス型心筋細胞死を回避できることを明らかとした。一方、培地中のグルコース濃度に依存して、虚血24時間後からオートファゴソームの形成増加が観察された。Caspase阻害剤zVAD-fmkを処置しておくオートファジーの誘導が促進するとともに虚血障害を抑制したが、オートファジーの阻害は細胞死を亢進した。乳がん株細胞MCF-7においても、高グルコース負荷によりオートファジーの誘導を介して虚血耐性能を獲得することを確認した。以上のことから、虚血におけるオートファジーの誘導は培地中グルコース濃度に応答し、虚血ストレスの回避に重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、オートファジー誘導による細胞死抑制に関わる分子の同定及び、虚血心筋細胞死機構の関連性を詳細に検討している。
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