私共は昨年度までに、統合失調症脆弱性因子dysbindin-1は、WAVE2/Abi-1複合体と結合し、初代培養海馬神経細胞のスパイン成熟を制御していることを明らかにした。今年度は、dysbindin-1の新たな分子機能を明らかにすることを目指し、新規結合分子の探索および性状解析を行った。各種の蛋白質間相互作用データベースを利用してdysbindin-1結合分子を探索したところ、細胞周期調節に関与するサイクリンDおよび低分子量G蛋白質と結合するarfaptinが見いだされた。これらの分子は、いずれも蛋白質間相互作用の網羅的解析から同定されたもので、哺乳動物細胞内での複合体形成や複合体形成の生理的意義については全く検討されていなかったため性状解析を開始した。過剰発現系を用いた免疫沈降法によりdysbindin-1とこれらの分子の結合を検討したところ、dysbindin-1は、サイクリンDおよびarfaptinと複合体を形成することが明らかとなった。さらに、dysbindin-1とサイクリンDの結合部位を免疫沈降法により同様に検討したところ、dysbindin-1のC末端側の部位とサイクリンDのC末端側の部位が両者の結合には重要であることがわかった。サイクリンDは、細胞周期の進行に伴い細胞質と核の間を行き来することが知られている。哺乳動物培養細胞のdysbindin-1の局在は、ほとんどが細胞質に見られたが、一部の細胞では核での局在も認められた。そこで、dysbindin-1の核での局在を制御する部位を、各種のdysbindin-1変異体を用いて解析したところ、N末端部のロイシンジッパー構造が重要であることがわかった。これらのことから、dysbindin-1は、サイクリンDと協調して細胞周期を調節している可能性が考えられた。
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