研究課題
近年、細胞内へ高効率に移行する10残基程度のペプチドが見出されており、特に移行性が優れているペプチド(例えばHIV-1 Tat (48-60)、penetratin、8~12残基程度のオリゴアルギニン)は膜透過ペプチド(cell-penetrating peptide、CPP)と呼ばれている。CPPを細胞内導入キャリアとして用いることで、様々な分子を細胞内へ送達することが可能であり、それ自体では細胞内へ移行困難なタンパク質や核酸、ポリマー等の各種活性分子とCPPを結合させることで効率的な細胞内送達が達成されている。しかしCPPの細胞選択性が乏しいため、標的とする細胞に特異的に移行するCPPの創製が強く望まれている。これまで癌細胞に発現量が高いトランスフェリン受容体を標的としたCPPの創製を行い、ペプチド配列中に受容体への親和性の高い配列を組み込むことで、受容体標的が効果的にできることを見出した。さらに受容体標的の応用を広げるために、ロイシンジッパーを用いた受容体標的が可能であるか検討した。遺伝子工学的に、細胞表面にFos配列を提示させるとともに、CPPとJunペプチドをハイブリット化することで、Fos発現細胞に選択的に細胞内移行できることを明らかにした。オクタアルギニン(R8)はCPPの一種として知られており、通常は細胞表面に発現する糖鎖依存的に細胞内移行することが分かっている。そこで、全ての糖鎖を欠失したCHO pgs-A745細胞において、同様にFos配列を細胞膜に提示させ、R8-Jun融合ペプチドの細胞内移行を検討した結果、pgs-A745細胞においてもペプチドが細胞膜を通過し、サイトゾル及び核内に移行することが新たに明らかとなった。またその膜通過の過程において、形質膜の損傷がほとんど無いことも確認された。R8ペプチドのみの場合では、pgs-A745細胞には移行困難であることから、R8-Jun融合ペプチドを用いることで、糖鎖非依存的に標的配列を提示する細胞に効率的に移行することが示された。本研究結果は、標的細胞への特異性の高いキャリア創製への重要な基礎的知見になり得ると考える。
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