バンレイシ科アセトゲニン類は熱帯・亜熱帯産のバンレイシ科植物より単離されるポリケチドの一種であり、強い抗腫瘍活性を有することから注目を集めている化合物群の一つである。その構造的特徴としては、1~3個のテトラヒドロフラン(THF)環とγ-ラクトン環が長いアルキル鎖で連結されていることが挙げられる。また、その生物活性はミトコンドリアの複合体1を阻害することによって発現しているものと考えられている。我々は、アセトゲニン類と同じく複合体1を阻害することにより活性を生じる呼吸鎖阻害系農薬との構造的な類似性に着目し、アセトゲニン類のγ-ラクトン環部位を呼吸鎖阻害系農薬由来の含窒素複素環に置き換えたハイブリッド型分子の合成に着手した。その結果、ハイブリッド型分子はヒトがん細胞に対して元の天然物より強い増殖抑制活性を示すことを見出した。また、昨年度までの検討の結果、THF環へと繋がるアルキル鎖と含窒素複素環との連結部分を炭素-炭素結合によるものから、N-メチルアミド結合に変更することによって、その生物活性は最大三千倍にもなることを明らかにした。 そこで平成22年度は連結部位の詳細な構造活性相関研究を行い、より高活性な誘導体の探索を行うことにした。まず、合成方法の検討を行い、種々の連結様式を有するハイブリッド型アセトゲニン類の合成に成功した。合成した誘導体のヒトがん細胞に対する増殖抑制活性を評価したところ、アミド結合で連結した誘導体は、天然物の最大1万倍もの強力な活性を示すことを見出した。また、アミドカルボニル基を還元した誘導体は強い活性を維持する一方で、逆アミド誘導体では顕著な活性低下が観察された。これらの結果より、ハイブリッド型アセトゲニン類において、複素環の連結部位の結合様式はその生物活性に大きく影響することが明らかになった。
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