研究概要 |
本研究では、アルツハイマー病(AD)の新しい治療方策として生体に備わった抗炎症能力を誘導・賦活化すること、特に抗炎症性の2型ミクログリア(MG)を積極的に活用する戦略と、これを実現する薬物シーズの開発を行った。 (1)4.5月齢ADモデルマウス(APP23)にIL-4/IL-13を脳内微量注入すると、注入2日後においてCD36陽性MGが出現し、7日後にアミロイドβ(Aβ)蓄積量が減少した。また、CD36陽性細胞は、マクロファージ/ミクログリアM2マーカー(Arginase I, Yml)と共局在したことから、スカベンジャー受容体を発現しAβクリアランスに関与するMGはM2様細胞(2型)であることがわかった。 (2)昨年度までに我々は、脳移行性IL-4誘導剤としてレチノイドに注目し検討を行ったところ、レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの経口投与はAPP23マウスの脳内Aβ_<42>ペプチドを有意に減少させることを見出した(Kawahara et al., Biol. Pharm. Bu11. 2009)。しかしながら、この条件下では空間認知能力の有意な改善を見出すには至らなかった。そこでRARシナージスト効果を期待し、レチノイドX受容体(RXR)アゴニストをRARアゴニストとともにAPP23マウスに共投与(経口投与)したところ、空間認知能力も有意に改善されることを見出した。 (3)レチノイドがMGの炎症性に与える影響を調べたところ、レチノイドはMGのIL-4受容体αを誘導することを見出した。このことから、レチノイドは、脳内の免疫担当細胞であるMGを抗炎症状態へ傾ける作用を持つことが示唆された。加齢やADにおけるレチノイン酸シグナルの低下は、MGの慢性的な炎症反応を惹起する可能性がある。
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