本研究では、新規タンパク質蛍光ラベル化試薬の開発を進めた。特に、試薬自身は蛍光をもたないが、タンパク質と結合することで蛍光性となる「発蛍光型」プローブの開発を目的とした。この性質をもつラベル化試薬は、(1)過剰の未反応試薬の除去が不要となるためラベル操作が簡便である、(2)信頼性及び感度の上昇が期待できる、等の大きな利点を有する。ラベル化に必要な相互作用として、「ヒスタグペプチド((His)_6)」と「金属錯体」との選択的相互作用に着目した。筆者らはすでに、ヒスタグペプチドと選択的に結合し、蛍光強度が上昇する「発蛍光型」プローブを数種類開発しているが、これらは「Co^<2+>-NTA錯体」を金属錯体部位として有している。 本年度は、金属錯体部位の改良を中心に研究を進めた。昨年度の研究で我々は、開発した「Co^<2+>-NTA錯体」構造を持つ試薬類は、「N末に存在するヒスタグのみを蛍光標識する」という性質をもつことを明らかとしている。この性質は、一般性が低いという問題点となりうるため、N末以外に存在するヒスタグも認識できる金属錯体の探索を行った。様々な金属錯体を合成し、ヒスタグとの結合をITC(等温滴定熱量測定)を用いて検討したところ、汎用されている「Ni^<2+>-NTA錯体」が最も優れた性質を持つことが明らかとなった。我々が開発した「Ni^<2+>-NTA錯体」構造をもつ蛍光色素は、ヒスタグとの結合による蛍光変化が遅いという欠点を持っており、蛍光色素の構造展開などを継続していく必要がある。
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