本研究者は、二十面体ホウ素クラスターであるカルボランが、その高い疎水性から医薬化合物の疎水性ファーマコフォアとして機能することを見出している。また本研究者は、カルボランのC-H水素の存在が化合物の生理活性に大きな影響を及ぼすことに注目し、それがC-H水素の高い酸性度と関係することをからC-H水素の水素結合能について精査し、水素結合のドナーとして機能することも見出している。そこで、カルボランの酸性C-H水素を分子認識のトリガーとして利用し、生体機能性アニオンを標的とした分子レセプターの構築を目標とした。本研究では、カルボランが有する特性を十分に理解し、生体機能制御に着目した新たな創薬手法及び研究領域の開拓を目的とした。本年度は、既に本研究者が見出しているカルボラン含有クロライドアニオンレセプターが、クロライドイオンとの共結晶構造で超分子集合体を形成し、クロライドイオンを中心としたシリンダー様構造をとることを明らかにした。この結果を基に、リポソームを用いイオンチャネルとしての機能を評価したところ、本化合物が脂質二重膜上でクロライドイオンチャネルおよびキャリアーとして機能することが明らかとなった。イオンチャネルの突然変異により生じる嚢胞性線維症に新たな治療法を示すと共に、超分子化学を創薬へ結びつける極めて重要な結果であり、新たな創薬手法の一つになり得ると考えられる。また、その誘導体化を行い、クロライドアニオンをより強く、かつ高選択的に認識する化合物を見出し、多様なプロファイルを有するアニオンレセプターを創製することに成功した。
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