研究概要 |
循環器疾患(動脈硬化など)やアレルギー性疾患(喘息など)の悪化に寄与する可能性が示唆され、ディーゼル排ガス等の人為燃焼発生源に由来する浮遊粒子状物質に含まれる、酸化ストレスを惹起する環境汚染物質であるキノン系化合物の人体曝露量を評価するための生体指標(バイオマーカー)を開発することを目的として研究を実施した。 キノン系化合物の中で、ディーゼル排出粒子中の主要成分の一つである9,10-phenanthrenequinone(PQ)に着目し、PQの曝露量を評価するバイオマーカーとして、PQのヒト尿中代謝物であると推定される9,10-dihydroxyphenanthreneのグルクロン酸抱合体または硫酸抱合体の分析法を昨年度開発し、ヒト尿中にPQ代謝物が排泄されていることをはじめて明らかとした。しかしながら、代謝物を脱抱合した際に自動酸化によって得られるPQを分析対象化合物としており、抱合体を直接検出していなかった。そこで、木年度はPQグルクロン酸抱合体(PQHG)を直接検出できるLC-MS/MS法による分析法を開発した。イオン交換能を持つ逆相系固相抽出を利用した尿試料の前処理法を開発し、また質最分析法での検出ではグルクロン酸部位で効率的にプロダクトイオンが生成するため、極めて高感度な検出が達成された。開発した分析法をPQ投与ラットの尿試料に適用したところ、PQHGを同定することに成功し、グルクロン酸抱合体が主要な代謝物であることが判明した。さらに、ヒト尿中からもPQHGをはじめて同定できたことから、PQが代謝されて抱合体として尿中に排泄されていることが確実となった。尿中PQ代謝物は、酸化ストレス評価のバイオマーカー候補となりうると結論付けた。
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