研究課題
結核(症)は、グラム陽性結核菌による慢性の肉芽腫性疾患であり、年間に200万人が死亡する最大の細菌感染症である。結核菌はマクロファージなどに寄生する細胞内寄生菌で、生体内で増殖期と休眠期の二相性の形体をとることが知られているが、菌がどのようにマクロファージの防御反応から逃れて生き延びているかについて不明な点が多い。我々は、ヒト肺肉芽腫にhypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)タンパク質の発現が高いことを明らかにしており、HIF-1α活性化に伴って誘導された遺伝子が、マクロファージおよび結核菌に様々な影響を与えていると考える。そこで、HIF-1αに着目し、宿主内での結核菌の生存および遺伝子の発現変化を検討した。Interferon-γ(IFN-γ)存在下で野生型およびHIF-1α欠損マクロファージに結核菌を感染させた後の菌の生存率は、野生型よりHIF-1α欠損マクロファージの方が高かった。IFN-γにより誘導されるNOは細胞内結核菌の重要な殺菌因子であることが報告されていることから、野生型およびHIF-1α欠損マクロファージでのNO合成酵素の発現を比較した。その結果、NO合成酵素mRNAの発現誘導は、両者で同程度みられた。さらに、NO合成酵素の阻害剤は、HIF-1α欠損マクロファージ内での結核菌の生存率を増大させた。以上のことから、HIF-1α欠損マクロファージで菌の生存率が増大していることにNOの影響はないことが明らかになった。一方、マイクロアレイ法により遺伝子の発現変化を比較したところ、特に代謝に関連する多くの酵素が野生型マクロファージで誘導されていた。また、低グルコース下における細胞内結核菌の生存率は、高グルコース下に比べ低かった。以上のことから、マクロファージのグルコース代謝が、結核菌が細胞内で生存するために重要な要因となる可能性が示唆された。本研究成果から、宿主内での結核菌の増殖は、マクロファージに発現するHIF-1αの影響を受け、さらにグルコース代謝酵素の亢進が菌の増殖を抑制する可能性が示唆された。今後、HIF-1αにより発現調節を受けるどの遺伝子が細胞内結核菌の生存に影響しているかを明らかにする。
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